地下墓所の殉教者
(古代ローマの物語)
1876年1月、アメリカ帆船が沈没した。その沈没した帆船より発見されたのが本書「地下墓所の殉教者」です。この物語は、紀元250年ごろのローマ皇帝デキウスによる迫害が背景となっています。
当時の聖徒たちは、スミルナの教会のごとく、大変な迫害に遭いながらも、主イエス・キリストのために耐え忍びました。この「なまぬるい」時代に、本書が主によって用いられることを願っています。迫害を耐え忍んだ聖徒たちと同じように「主イエスよ。すぐに来てください」と祈り続けることができますように。
目 次
まえがき
第1章 コロセウム
(虐殺劇が催されたローマの休日)
第2章 親衛隊の宿営
(百人隊長コルネリオ - 神を畏れる正しい人 使徒 10・22)
第3章 アッピア街道
(悲しげに立ち並ぶ墓 - 強者たちが眠るアッピア街道)
第4章 地下墓所(カタコンベ)
(まったく光のない暗やみ 悲痛な光景、嘆きの場所、悲しげな陰影)
第5章 クリスチャンの秘訣
(敬虔の奥義 - 肉において現れた神)
第6章 雲のごとき証人たち
(これらの人々はみな、信仰の人々として死にました ヘブル 11・13)
第7章 信仰告白
(キリスト・イエスにあって敬虔に生きようと願う者はみな、迫害を受けます
Ⅱテモテ 3・12)
第8章 地下墓所での生活
(ああ、暗い。あまりにも暗い、地上は真昼の輝き。それなのに漆黒の暗やみ、永遠の皆既日食のよう。夜明けの希望もない)
第9章 迫害
(あなたがたが神のみこころを行って、約束のものを手に入れるために必要なのは忍耐です ヘブル 10・36)
第10章 逮捕
(信仰の試練は忍耐を生み出す)
第11章 親友の願い
(人がその友のためにいのちを捨てるという、これよりも大きな愛はだれも持っていません ヨハネ 15・13)
第12章 ポリオの裁判
(あなたは幼子と乳飲み子たちの口に賛美を用意された マタイ 21・16)
第13章 ポリオの死
(死に至るまで忠実でありなさい。そうすれば、わたしはあなたにいのちの冠を与えよう 黙示録 2・10)
第14章 誘惑
(もしひれ伏して私を拝むなら、これを全部あなたに差し上げましょう マタイ4・9)
第15章 ルクルス
(正しい者の呼び名はほめたたえられる 箴言 10・7)
第1章 コロセウムより本文の一部を公開いたします。
男がひとり場内に入ってきた。
かなりの高齢と見えて、腰は曲がり、髪も真っ白だった。
その姿は観衆の嘲笑を浴びたが、威厳のある顔立ちや品位のある物腰は賞賛に値するものだった。
「だれなの?」
「アレキサンデル。忌むべきキリスト教の教師さ。
やつはとても強情だから、信仰を取り消すつもりは・・・」
「ローマの人々よ!」と老人は言った。
「私はクリスチャンです。私の神は私のために死なれました。ですから、私も神のために喜んでこの命を捨てます。」
観衆が激しい怒りを爆発させ、のろいのことばをいっせいに浴びせたため、彼の声はかき消されてしまった。
三匹のヒョウが彼に向かって跳びはねていった。
彼は腕組みをして天を仰ぎ、小声で祈るかのように唇を動かした。
立っていた老人に獰猛なヒョウが襲いかかり、二、三分で彼をずたずたに引き裂いた。
別の野獣も何匹か放たれた。
その中に無力な囚人たちが放り込まれたが、その大半は少女だった。
彼女たちも、血に飢えたローマの犠牲となったのである。
少女たちは恐ろしさで縮みあがっていた。
ひどい死に方をするのだと分かると、生まれながらの弱さを隠し切れなかった。
しかし、彼女たちはすぐに信仰の力によって奮い立ち、あらゆる恐怖に打ち勝った。
獣たちが獲物の存在に気づき、そばに近づきはじめた。
するとそれまで伏し目がちだった少女たちは天に向かって目を上げた。
そして互いに手を握り合い厳かな賛美歌を大声で歌いはじめた。
そのあまりにも美しい歌声は天に向かって響きわたった。
私たちを愛してくださった方にご自分の血潮によって私たちの罪を洗いきよめてくださった方に私たちを王とし、父なる神のために祭司としてくださった方に そう、この方に、いつまでも栄光と力とがありますように
ハレルヤ! アーメン!
ひとり、またひとりと血にまみれ、苦しみもだえながら息絶えていった。
彼女たちは死に至るまで忠実であった。
その歌声は、天にいる贖われた者たちの賛美と一つになったのである。